メンヘラと付き合うとどうなる?【メンヘラ彼女と付き合って精神崩壊した話 Part.7】

 

 

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 Epsode.7 【年越】

 

その後、ユキは30分程かけて空欄を埋めていきました。

 

「笑顔の1年を過ごす」

来年の目標の欄に、最後にそう記入していました。

ありふれている何気ない目標でしたが、色々辛い事があった彼女にとってはとても貴重で大きな目標だったのかもしれません。

 

「いいじゃん。」

それを察した僕は一言そう言いました。

 

「まあ、こんなもんかな!」

彼女は満足そうにそう言うと、紙を眺めました。

謎の恒例行事に真剣に付き合ってくれたユキに、心から感謝をしました。

 

「来年はいい年に出来るといいなー。」

 

「きっといい年になるよ。」

 

「今年も初詣に行かなきゃ。来年記入できない。」

ユキは言いました。

 

「今年もセイカと行くの?」

 

「特に予定は立ててないんですけど、誘ってみようかなー。」

そう言う彼女は、何かを言いたげでした。

 

「良かったら一緒に行く?」

思わず僕はそう聞いていました。

 

特に予定がなかった僕らは、4時間後の12月31日、23時に再度合流することを約束してコメダを後にしました。

 

 

 


 

僕らが住んでる国立市から程近い、谷保天満宮は参拝客で行列をなしていました。

たこ焼きや焼きそばなどの出店も立ち並び、賑わった非日常的なその雰囲気が僕はなんとも言えずに好きでした。

 

ユキはピンク色のタートルネックのニットの上に紺色のスタジャンを羽織って、白いマフラーを巻いていました。

ファッションに対して全く無頓着な僕でしたが、シンプルで飾らないのに洗練されている彼女の服装にはとても好感を覚えました。

 

「寒いなー。」

 

「寒いですね。」

そんなたわいも無い会話をしながら、お互いに白い息を吐きました。

その内に年越しのカウントダウンが始まって人々が盛り上がり始めました。

 

 

ここにいる人達はそれぞれどんな思いを抱きながら、この列に並んでいるのでしょうか?

今年は素敵な年だったのか、それともユキや僕のようにあまりいい一年ではなかったのか

それぞれ色んな感情を抱えながら、来年一年をいい年に出来るように神様に祈りに来たのか

それともきっとそんな事は考えず、ただ年明けに初詣をするのが当たり前の事だから、それに従ってるだけなのか。

 

僕は毎年初詣の時に、そんなお気軽な気持ちじゃいられず、「去年ははほんとダメだったな。今年もどうせダメなんだろうな。」なんてセンチメンタルな気持ちになってしまうのが決まり事のようでした。

 

「明けましておめでとうございます。」

そんな事を考えている内にユキが言いました。

 

どうやら年が明けたようです。

 

「明けましておめでとう。」

僕も答えました。

 

 

参拝客の列が流れ始めました。

年明けの瞬間には何故かユキが隣にいました。

もしかしたら、今年はいい年になるのかもしれません。

僕が隣にいる事によって、ユキもそう思ってくれている気がしました。

しかし僕達は恋人同士でもなければよく分からない関係でした。

もし仮にユキが僕の事を好きだとしても、僕は彼女と付き合うつもりはありませんでした。

僕がユキの事を好きだとしても、その感情は認めてはいけない物でした。

 

ユキもなんとなくそれを察していたかもしれません。

彼女の方をちらりと見ると、嬉しいような切ないようなそんな横顔をしていました。

 

僕達の関係は非常に曖昧な物でした。

 

 

30分程並んだでしょうか。

僕達はようやく賽銭箱の前に辿り着きました。

僕は財布から5円玉を取り出し賽銭箱に投げ入れ、鈴を鳴らし手を合わせました。

ユキもそれに習いました。

途中ふと盗み見ると、彼女は真剣な顔で手を合わせ神様にお祈りをしていました。

その横顔から今年一年にかける彼女の想いの強さが伺えました。

 

僕自身は何を願ったか、さっぱり覚えていません。

どうせ下らない事だったような気がします。

初詣で神様に祈った事なんていちいち覚えていないのが普通です。

 

 

参拝が終わってから、簡易的に設営されたベンチに座り甘酒を飲みました。

お酒が飲めないユキは甘酒を飲んだ事がなく、アルコールが入ってない事を説明し、僕は無理やりに甘酒を飲ませました。

 

「美味しくない。」

彼女は一言そう言いました。

 

「さっき随分真剣にお祈りしてたけど、何をお願いしてたの?笑」

僕は彼女が何を祈願していたのか気になって聞きました。

 

「何で見てるんですか!趣味悪いですね!」

 

「いいから教えてよ笑」

 

「隼人さんには絶対教えられません。」

どこか含みがある言い方で、彼女はそう言いました。

そのせいで尚更気になった僕は、その後何度も同じ質問をしましたが、最後まで彼女は答えてくれませんでした。

 

あの時彼女が何を願っていたのか、未だにその真相を知る術はありません。

 

 

 


 

「ほいじゃ、おみくじでも引いて帰るか!」

最後に僕はそう提案しました。

 

「引きましょ!引きましょ!」

彼女は笑顔でそう答えました。

 

その時、僕はユキが大吉を引き当てる事を期待しました。

ユキが大吉を引いてくれたらどんなに報われるだろうか。

今年から彼女の人生がいい方向に向かいますように。

自分が当たりくじを引く事なんて祈りもせず、そんな事を密かに願いました。

 

しかし結果的に僕は「末吉」を引き、ユキは人生初の「凶」を引きました。

おみくじを開いた後、一瞬気まずい雰囲気が流れました。

あの時、彼女が凶を引いた瞬間、笑い飛ばしてあげればよかったのに僕は言葉を失ってしまったのです。

 

誰よりもユキの幸運を祈っていたからこそ。

 

「まあ、神頼みなんてくだらねえよな!自分の未来は自分で切り開くもんさ!笑」

僕はその場を取り繕うと焦り、初詣の根本を否定する元も子もない発言をしました。

 

「そうですよね。今年はいい年にするぞ!」

かろうじて彼女は笑ってくれました。

 

 

あの日引いたおみくじは、僕達の未来を暗示していたのかもしれません。

 

 

メンヘラちゃん

メンヘラちゃん

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Part.8 へ続く

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