キャベ太の家出日記 Part.2

 

 

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Episode.2 泊りがけの家出

 

6年生の時に僕はまた家出をしました。

初めての家出からこれまで何度か家出をしていましたが、結局怖くなって夜には帰って来ていました。

 

この頃兄とは一切口を聞かなくなっていたし、4個下の妹ともほとんど口を聞いていませんでした。

母親ともあまり口を聞きませんでしたし、父親はほとんど家にいませんでした。

孤独な子供でした。

 

「もうこんな家にいる必要は無い。」

「自分は家族の一員じゃ無い。」

 

悲観的な少年はそう思いました。

 

「もう帰らないんだ。」

そう心に決め、僕は家を出ました。

そうは言っても学校が始まる前には帰らなくてはいけないと理解はしていました。

 

 

土曜日の事です。

 

小金井公園」に行こうと決めていました。

小金井公園には何度かサッカーの練習で行った事がありました。

そこにホームレスのおじさんが何人か住んでいる事も知っていました。

やたらとトイレが広く、そこに寝泊まりだって出来るはずだと思いました。

夕方5時くらいに僕は誰にも気付かれないように家を出ました。

  

寒い冬の日でした。

トレーナーの上にジャージを2枚重ねて、下もジャージを2枚重ね着しました。

 

小金井公園までの1時間ちょっとの道を息を切らして自転車を漕ぎました。

 

 

 


 

小金井公園に到着した時にはすっかり日が落ちていました。

ホームレスのおじさんがベンチでタバコを吸っていました。

僕はコンビニで肉まんとお菓子とcc.lemonを購入し、小金井公園のトイレの扉を開きました。

 

普通の男子便所ではなく、障害者などが使えるようにされた大きめのトイレです。

オムツ交換が出来るように、赤ちゃんの寝台も設備されています。

 

僕はオムツ台の上に食料を広げました。

便器に座って、ゲームボーイアドバンスに友達のもっちーから借りた伝説のスタフィーをセットしました。

伝説のスタフィー

伝説のスタフィー

 

 

大好きなドラゴンボールの漫画も持って来ていました。 

15巻から20巻まで、悟空が天下一武道会でピッコロと対戦し、その後サイヤ人が地球侵略にやってきてそれを返り討ちにする一番面白いシーンです。

 

食事を済ませ、スタフィーを始めましたがあれだけ楽しみにしていたスタフィーが全然楽しいと思えません。

何度読んでもあれだけワクワクしたドラゴンボールも全然頭に入って来ませんでした。

 

スタフィードラゴンボールさえあれば何も怖い物など無い。

そう思っていましたが、不安が圧勝しました。

 

しかし「今日は絶対帰らないんだ」と心に決めていました。

 

まだ時刻は18:30頃

床に着くには早すぎる時間です。

だからと言って6年生の僕がこのトイレから出て、夜の小金井公園に繰り出した所で何が出来るのか、と言う話でした。

 

と言うより、単純に家から遠く離れたこの場所でトイレだけが唯一自分の身を守ってくれる結界なような気がしました。

「トイレにいれば安全だ。」

とにかくそう思ったのです。

 

そんな不安な思いをしてまで家出をする意味が分かりませんが、当時の僕からしてみればそれがプライドだったのです。

 

 

 


 

食料も底をつき、ドラゴンボールスタフィーで気を紛らわせるだけの時間が続きました。

 

外から人の話し声が聞こえて来ました。

 

『ここに泊まってる事がバレたらどうしよう』

そう思って不安になりました。

 

 

足音が聞こえます。

どうやらトイレに近づいて来てるようです。

 

ガタッ

引き戸が少し動きました。

 

心臓が止まりそうになりました。

 

 

ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン!

 

あろう事か扉をノックして来ました。

 

僕はスタフィーをやる手を止め、息を潜めました。

  

ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン!

 

ドクンドクンドクンドクン

心臓は高速で脈を打ち始めました。

 

ようやくノックの音が止まった時には冷や汗がダラダラと流れていました。

 

 

 


 

時刻は何時になったのでしょうか。

時計なんて持っていませんでしたし、ゲームボーイアドバンスに表示される時刻はデタラメでした。

 

そして寒くなって来ました。

いや、寒いのは元からでしたが我慢出来なくなって来ました。

布団もなければ、コートすら持っていません。

 

真冬のトイレに宿泊するのに、ジャージの重ね着では武装が足りなすぎます。

 

そして便器にずっと座っているので、お尻も腰も痛くなって来ました。

トイレから出るのは恐怖だし、変に音を立ててここにいるのが誰かにバレたら大変です。

 

さながら、僕は指名手配犯かのように身を潜めていました。

 

 

最悪な事態が起きました。

 

ゲームボーイアドバンスの電池が切れました。

缶電池を取り出して、手のひらで転がして再生を測りましたが努力も虚しく、アドバンスは復活しませんでした。

 

ドラゴンボールももう読み終わってしまいました。

もう何にもすがるものがありませんでした。

 

そろそろ眠くなってもいい時間のはずなのに、眠気なんてやって来ませんでした。

 

 

ジジジジジジジジ

 

ブーーーーーン

 

カツンカツン

 

それらの音は何処からともなく聞こえてきて、僕の不安を煽りました。

 

朝を待ち望みました。 

 

 


 

それから何時間経ったでしょう。

寒さに凍えながら物思いにフケっていました。

 

これから自分はどうなるのか。

何になるのか。

幸せだと心から笑える日が来るのか…

 

 

ふと我に返ると恐怖が襲って来ました。

外からは人の話し声も、足音も一切聞こえなくなっていました。

眠気は一向にやって来ませんでした。

 

今でこそ全くですが、僕はもともと怖がりな性格でオバケに怯えて夜眠れなくなる事がよくありました。

当時USOジャパンなどの、心霊番組がやたらと流行っていて、僕はそんな番組を見る度に怖くて眠れなくなりました。

 

この日だって当然オバケに怯えました。

得体の知れない何かが怖くてたまりませんでした。

家から遠く離れた公園のトイレで深夜一人きり。

普通の小学6年生の日常では考えられない状況です

 

いつオバケが出ても不思議じゃありません。

何故前もって自分がこんな怖い思いをすると言う事を予想出来なかったのでしょうか。

 

勢いだけで行動する自分の性格を恨みました。

 

 

それからしばらく経って、僕は思いました。

 

「もしかしたら、もう朝がきてるんじゃないのか?」

閉鎖されたトイレの中では時間が分かりません。

隙間から光は差し込んでいませんでしたが、季節は冬なので朝になっても暗い事だって考えられます。

 

その時何を定義していたのかは不明でしたが、僕にとっての怖いは、暗さより時刻の方が大きな尺度を持っていました。

一番怖いのが丑三つ時の2時で、暗くても4時から5時までの時間的に早朝を定義する時刻であればそこまで怖いとは思いませんでした。

 

外には時計がある事を知っていました。

僕は猛烈に時刻を確認したくなってたまらなくなりました。

 

もし4時になってたらもう朝だから帰ろう。

朝なら怖くない。

ここまでいれたら上出来だ。

 

そう思うと僕は意を決して、恐怖に怯えながら恐る恐る外に出ました。

 

 

外は思った通り真っ暗で誰もいませんでした。

シンと静まり返っていて、吐く息は白くなって空気に溶けて行きました。

 

もし誰かに見つかったら終わりだ。

急に物陰から人が飛び出してきて殺されるかも知れないし、オバケが出るかも知れない。

僕はありとあらゆる恐怖に怯え、さながら脱獄犯のように周りを警戒して歩きました。

心臓はドクンドクンと物凄いスピードで脈を打ちました。

 

ようやく時計台の下まで辿り着きました。

時計を見上げ僕は落胆しました。

 

 

深夜の1時でした。

 

あと1時間で丑三つ時が来てしまうし、1時も十分危険な時間です。

こんな時間に一人外にいる事が怖くて怖くてたまらなくなりました。

 

 

僕は急いでトイレに戻り扉を閉めて鍵をかけました。

心臓はバクバク音をたてていました。

24時間灯がついてるトイレは本当に救いでした。

 

「もう朝まで待つしかない」

寒さに震え、恐怖に涙をこらえながら、色々な事を考えました。

 

 

 


 

気づいたら眠りに落ちていました。

疲れていたのか、恐怖が途切れた一瞬の間で眠りに落ちた見たいです。

当然便器に蹲っていたので熟睡ではありませんが、外が少し明るいような気がしました。

 

外に出て見ました。

少しだけ明るくなっていました。

恐る恐る時計の方まで歩いて見ると時刻は5時でした。

5時であれば今まで何度も外に出ています。

 

 

「帰ろう」 

そう決めました。

 

 

 


 

全速力で自転車を漕ぎ、1時間で家に着いた時には既に太陽が昇っていました。

 

またしても家にたどり着いた時には大きな安心感がありました。

鍵で玄関を開け、家に入ると父親がだらしない腹を出して寝そべっていました。

 

父親は家族との行動時間をずらしていたので、家にいる時は深夜から朝までの事が多く、帰って来た僕に言いました。

 

「何してんだお前ー」

 

いつもだったらうざったく思う父親に対して、僕はウザったいふりをしながらも心から安心して言いました。

 

 

 

「帰って来た。」

 

 

父親はアホなので特に気にも留めずに言いました。

 

 

 

「そうかぁー」

 

 

 

僕は安心して眠りにつきました。

 

 

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