アラサーホストになる【エピソード22 究極のメンヘラ】

 

究極のメンヘラ

 

A子とのエピソードで一番しんどかった事がある。

 

出かけて、彼女を車で家に送っている時、着信がなった。

初回で来て連絡先を交換した女の子だった。

連絡先を交換してからは定期的にやりとりをしていたんだけど、その後店に来る見込みが無さそうだったので返信するのを辞めた子だ。

 

何故いきなり電話をかけてきたのかは謎だ。

もちろん出なかったけど、それを見た彼女はやはり発狂した。

 

 


  

 

「誰この女!!!!!!」

 

もう、面倒くさい。

こうなったら手に負えない。

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別に僕からすれば大した事ない話だけど、一度キレたら何を言っても無駄なのだ。 

前回と同様、やはりカミソリをつきつけられて、「死ね死ね!!」 と喚き散らす所まで発展した。

 

 

「落ち着いてよ。ただ電話が来ただけで、なんで殺されなきゃいけないの。」

 

適当に親戚とか言っておけば良かっただろうか。

最初の内は我慢して宥めようとしたけど、一向に引き下がる気配はない。

流石にだるすぎて、カミソリを取り上げて、車の窓から投げ捨てた。

 

 

「ふざけんじゃねぇー!!私の大事なものだぞ!!今すぐ拾ってこい!!!!!」

 

大分意味が分からない。

100均で3本入りのカミソリだ。

どこが大事な物なのだろうか。

 

もうどうでもいいし、帰りたかった。

 

 

「拾ってきたら帰ってくれるの?」

 

 

「いいから拾ってこい!!!!!」

 

 

僕は車のドアを開けて、投げ捨てたカミソリを拾って彼女に渡した。

 

取り上げた時に折れたみたいで使い物にならなそうだった。

 

 

「ふざけるな!!壊してんじゃねえか!!人の物壊すとかゴミだな!!死ね死ね死ね!!!!!!

 

 

もはやキレるポイントの意味が分からない。

自分でも錯乱してるのは分かってるのだろうけど。

 

 

「弁償するから。」

 

 

「今すぐ買ってこい!!早くしろ!!!!!」

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時刻は深夜2時になっていた。

めちゃくちゃ言うにも程がある。

 

その後何度も同じ押し問答を続けた。

 

何度か無理やり彼女を車の外に押し出そうとしたけど、意地でも出てくれなかった。

 

「これ以上帰ってくれないなら警察呼ぶよ」

とも言った。

 

本気で呼ぼうとは思っていなかったけど、警察がこの状況をどうにかしてくれるならもうそれでもいい。

 

まあ、予想通り激高した。

 

 

僕は今まで、女性に暴力をふるうのは何があっても許されないと思っていたし、それをする人を真っ向から否定していた。

しかし状況によっては仕方ないのかなと思った。

この時僕が彼女に手を出していたとしても、一切自分が悪いとは思えない。

もちろん、この時もその後も僕が彼女に手を出す事は一度も無いけど。

 

話しが一生終わらないように思えて気が遠くなった。

トイレに行きたくなった。

 

「オレ、トイレ行きたいからそろそろ行くよ。また今度話そう。」

もちろんこれも無理だ。

結局コンビニまで戻って用を足した。

猛烈にタバコが吸いたかったので、ゆっくりと一服して車に戻った。

 

 

 

 


  

戻ると、彼女は血だらけだった。

白い両手首の数か所から赤い血が噴き出していた。

 

 

「見ろ!全部お前のせいだからな!」

 

僕も本当にどうすればいいか分からなかった。

彼女がとても辛いのは分かるけど、僕にはどうしようもない。

自分だけを見てくれて他の女には一切見向きもしない。

 

自分の為に全てをささげてくれる人を望んでいるのは分かるけど、僕はそれにはなれない。

それは何度も伝えているし、それが納得できないなら離れるしかない事も伝えている。

でも、それも出来ない。

自分の思い通りのままコントロールできなきゃ許せないんだと思う。

 

ただ単に早く帰りたいという思いしかなかった。

 

 

「もう辞めなよ。そういう生き方。オレに何を言ったって、自分が傷つくだけだよ。」

 

 

「黙れ!お前のせいだろ!!お前が私の事をここまで追い込んだんだからな!責任とれ!」

 

 

「責任って・・」

 

 

「今すぐ他の女の連絡先全部消せ!!」 

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彼女は喚いた。

やむを得なかった。

 

ここで断ったら更なる惨事を産む。

それにこの頃、他の客には全然連絡を返して無かったし、店に来てくれる見込みがありそうな人もぼぼいなかった。

個人的に連絡を取りたいと思っている女の人も別にいないし、さほどデメリットは無いと一瞬で判断した。

いざ連絡をとる必要があるとすれば何かしらの方法もある。

 

僕は彼女の目の前でラインの連絡先をブロックして、削除した。

それを見て多少納得したか分からないけど、彼女は我に返った。

 


  

 

「痛い」

そう言って、手首を抑えて泣き出した。

 

コンビニで包帯を買って応急処置をした。

泣き疲れて体力が無くなったであろう頃、ようやく帰ろうとしてくれた。

相当疲れているのか足元がふらついていた。

 

 


  

朝になっていた。

 

「裏切ったら許さないからね」

別れ際に彼女は笑顔でそう言った。

 

 

「分かったよ」

 

 

別に彼女と切れようがどうでもいい。

いくらお金を使ってくれたとして、いくら売り上げが上がったとしてもここまでの精神の負担は耐えがたい。

どちらかと言うとここまで来たら後に引けないと言う思いの方が強かった。

今更彼女の事を放り出す訳にはいかない。

そんな事をしたらどうなるか分かったもんじゃない。

 

もちろん多少の情もある。

何と言うか彼女は全力で生きている気がした。

なりふりかまわない。

空気なんて読まないし、周りの事なんて一切考えない。

100%自分に正直に生きている。

そんな彼女の事が少し眩しくも思えた。

僕にはそんな生き方到底出来たものじゃない。

 

一番危惧していたのは、彼女の中で僕が「裏切り」ととる行動を取った時、彼女が死んでしまわないかと言う事だ。

 

 

 

ーーーエピソード23へ続くーーー

 

 


 

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