アラサーホストになる【エピソード23 No.3】

5月

僕は丸一か月ホストの仕事を休んだ。

 

4月も2回しか出勤しなかったので、ほぼ2か月休んだ。

会社にも週に2回しか行かなかったし遊びにもそんなに行かなかった。

おかげで信じられないくらい体力が回復して元気になっていた。

コロナ以前は常にギリギリで常にヘトヘトだった。

やはり人間定期的に休んだ方がいい。

何と言うか「もう一度頑張ろう」と、新たな心持になる事が出来ていた。

 

 


  

6月

緊急事態宣言が解除され、営業が通常に戻った。

しかし、1ヶ月休業の赤字のせいで、人件費削減が余儀なくされ、バイトの僕は客を呼べる日以外は出勤を禁じられた。

清々しい気持ちで頑張ろうと思っていたのに肩透かしを食らった気分だ。

しかし、緊急事態宣言が明けたからと言って客足が戻ってくる訳じゃないからそれも仕方ないとは思う。

 

8日は自分のバースデーだった。

ナンバーに入っていた頃は、店側もイベントを打つ気満々だったけど、ナンバーを落として、挙句の果てに5月は1回も出勤せず、代表からの電話もシカトしていたから、見限られたのか自分のバースデーの日すら代表は覚えていなかった。

そもそもコロナの影響で、飛沫防止シートが張られ、どの道イベントを打つと言う事は無かったんだけど。

 

 


  

6月8日

2か月ぶりに僕は出勤した。

 

 

A子には事前にバースデーだからシャンパンを入れてなどのお願いはしていなかった。

言ったらキレられそうだし、それに何というかサプライズをしてくれそうな雰囲気があった。

言われなくてもしようと思っているのに、言われると気分が悪いと思う。

今から宿題をやろうと思っていた矢先「宿題やりなさい!」と母親に言われると、クソほどにムカつくあの時の感情に近い。

 

「幾らくらい行く?シャンパン入れられんの?」

と、裏で代表に圧をかけられたけど

 

「知らないっす」

ぶっきらぼうに答えた。

 

後は彼女に任せるしかない。

 

無理やりシャンパンを煽るのは僕の主義じゃない。

 

 


 

予想は的中!

僕がトイレに行っている間にドンペリが入った!

これまでのホスト人生で一番の高額ボトルだ!

 

それだけドンペリと言うボトルはホストにとって価値のあるボトルだし、名誉の一つだ。

ナンバーを落とした僕にとっても名誉挽回の大きな機会となった。

 

僕は彼女にマジで感謝した。

ここまでの苦痛が実った瞬間でもあったかもしれない。

その日の売り上げだけで僕は一気にナンバー1になって、彼女も喜んでくれた。

それから彼女はしばらく上機嫌で、喧嘩もしなかったし(喧嘩と言っても僕が一方的にディスられるだけだけど)病む事もなかった。

 

ここまで来たら、僕をナンバー1にしたいと言う事で彼女はバースデー以降も何回か来てシャンパンを空けてくれた。

流石に一人だけでの健闘じゃ限界があって、結果僕はナンバー3になった。

締め日にその月のナンバーが決まった時、ナンバー2のmioさんとの差はたった1万円だった。

彼女は悔しがって何故かmioさんにキレていた。

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もちろんコロナで他の人の売り上げが落ちている中だけど、売り上げもナンバーも今までの最高記録となった。

しかしナンバー3と言えども、小計50万円には届かず給料が歩合になる決でも無く、出勤日数も8日だけだったから給料は6万円くらいだった。

総売りで言ったら50万円近く売ったのに、僕の手元に入るのはたったの6万円だ。

 

女性を騙して搾取するのが、一般的なホストクラブのイメージだと思うけど、それ以上にホスト自体が搾取されているのがリアルだと思う。

 

店には当然のように搾取されるし、売り掛けを飛ばれたとしたら客にも搾取される。

後々回収出来たとしても、幾らかは給料から引かれて自腹になる事の方が多い。

例え、ナンバーに入っていたとしても自腹を切りまくってたら、なんの意味も無いと思う。

店側からは「自腹を切ってでも呼べ」とプレッシャーをかけられる。

 

「店の為に」と言う責任感が強いホストは毎月限界まで自腹を切って売り上げを上げる。


常にナンバー上位にいても全然金が無いホストにはそういう側面が多い。

責任感とプライドの為に自腹を切るからだ。

僕はそんな責任感なんの役にも立たないと思うし、ナンバーの為に自腹を切るそんなプライド不要だと思う。

だから、売り掛けは極力しなかったし、代表に圧をかけられても、客を無理に呼ぶことは無かった。

  

「あなたの為に頑張ったの。裏切ったら許さないからね。」

彼女はそう言った。

 

 

 

ーーーエピソード24へ続くーーー

  

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ドンペリ

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