アラサーホストになる【エピソード4 売掛を飛ばれた】

 

初指名を呼んでから一週間後には、初回で来た客から指名を引く事も出来た。

 

初めて初回から指名をもらったお客様は、なかなか強烈だった。

 

 


 

初回で来たその人は挙動不審な感じのおばちゃんだった。

 

恐らく30 代後半から40代前半くらいで、髪の毛を派手な色に染めているが、カラーリングのせいで痛んでいるのか、頭皮がむき出しになっていて、無理な若作りが痛々しかった。

腕には複数タトゥーが入っている。

 

声は酒焼けなのか潰れきっていて、聞き取るのが難しいレベルだ。

 

こんな普段関わる事の無い人であろうと、褒めてお酒を飲ませて、楽しませるのが僕らの仕事だ。

 

ある程度売り上げがあるのであれば、お金の無さそうな人は相手にしないだろうけど、初回の卓につくのが数回目だった僕からしたら、とりにいかないはずがない。

 

 

何かと不満が多いみたいで、初対面の僕にやたらと愚痴を言ってきた。

 

自分が面白いと思う事を言っても、相手が面白いとは限らない。

 

あくまでも会話のペースはお客様にある。

 

愚痴を聞く場合なんて特にそうだ、こちらから話の腰を折ってはいけない。

 

そんなこんなで、本当の所全く興味もクソもない愚痴を、真剣に聞いたふりをしたからか印象が良かった。

 

趣味を聞いたら意外にも「読書」と言ったので、「今度おすすめの本貸すよ!」と言って連絡先も交換した。

 

何かと理由をつけて会う約束をとりつける。

 

そのおかげで送り指名をもらう事が出来た。

 

新規のお客様には連絡先を聞くのが基本だが、教えてくれない場合も全然ある。

教えてくれた場合でも連絡が続かないのが大半だ。

週に数組しか来ない新規の中で、気に入られる事、その後連絡をとり続ける事。

 

そして指名をもらう事。

 

そもそもがチャンスが少ない立川の街で、指名を勝ち取るのは本当に雲を掴むような話だ。

 

なので、出会い系で手当たり次第にメッセージを送くったり、キャッチに出て声をかけまくったりと分母を広げるしかない。

 

人気ホストになるまでの道のりは果てしなく険しい。

 

結局、その客にはファミレスを奢って本を貸した。

 

仕事を聞いたら「今は無職」 と言っていたが、一つでも多く指名を増やしたかった。

 

これは単なるプライドだ。

 

「読み終わったら返しにきてよ」 と言ったら、次の日店に来た。

 

 


 

初回で来た時は売って変わって、酔っぱらって、ベタベタしてきた。

 

営業が終わって、駅まで送って行く運びとなったが、なかなか帰ってくれない。

 

「終電間に合わないよ」

と、どうにか帰そうとしても全然帰ってくれない。

 

結局、だらだらして終電を逃した。

 

「ごめんね、今日は付き合えないよ、だからタクシーで帰りな。」

と言うと

 

「お金全部使っちゃった。タクシー代無いから帰れない」

 

と言って、路上に座り込んだ。

 

仕方ないからタクシー代を渡して帰らせた。

 

今までの人生で番払いたくない金だった。

 

それから毎日「会いたい」とか「寂しい」とか連絡が来た。

 

「おれも会いたいよ。待ってるね」

といって営業をかける

 

「お金無いからいけない」

と言われた。

 

 


 

 

「かけでもいいから入れて」

 

上からは常に圧をかけられる。

 

予定を作れ、客を呼べ、呼んだら呼んだで単価を上げろと。

 

とにかく結果が出せない者は認められない。

入りたての時は歓迎こそしてくれたものの、ホストクラブと言うのはそういう所だ。

これは致し方ない。

 

「お金は払える時でいいよー」

と言って店に呼んだ。

 

結局、その客はお金が無いのに、バカスカ飲んで、ボトルを空けて会計は4万を超えた。

 

来週には返すからと何回も言っていたし、大丈夫だろと思い、売り掛けを承知した。

 

その日もどうにか家に帰した。

 

 

 

 

 


 

それからは、ひどかった。

 

「お金がない」

「お腹減った。ご飯が買えない」

「タバコ買えないから買ってきて」

 

毎日そんなラインが来た。

まるで乞食だ。

無視をするとキレる。

 
「なんで無視するの?」

「私の事好きなら助けてよ」

 

当然そんなのに付き合ってる時間は無い。

とりあえず売り掛けだけ回収して切ろうと思った。

 

しかし、1週間くらいしてパタリと連絡が取れなくなった。

 

ラインのアイコンが他のホストの顔に変わっていて、ブロックされたようだ。

お金が無いといいながらも、他店に初回巡りは行っていたようだ。

 

ここで初回巡りと言う、ホスト用語についても触れておく。

 

 

初回巡りとは

 

以前の記事でも記述したように、ホストクラブは指名する担当ホストが決まってから料金が高くなる。

 

初めて行く店では、担当を決めずに初回料金で入る事が出来る。

初回で来た客には、ホストが1人ずつついて順番に接客する。

そこでお気に入りのホストを見つけてもらって、次回以降指名客として来てもらうのがもちろん狙いだ。

 

初回はどこのホストクラブも千円、二千円が相場だからお金はかからない。

 

初回巡りとは、指名せずに初回だけであちこち店を回る事だ。

初回荒らしと言って、指名せずに初回だけと割り切って楽しみに行く客も多くいる。

 

むしろ金が無くても初回なら、安く飲めるという考えの人もいる。

 

 

売掛を飛ばれた

 

話しを戻す。

 

結局、その客とは連絡が取れず、売掛金は僕の給料から引かれる事になった。

 

店側は掛けをしてでも売り上げを上げろと言ってくるが、いざ掛けを飛ばれたとしても何もしてくれない。

あくまでもそれはホストの責任になる。

 

客の住所は知っていた。

売掛をする時に、伝票に書いてもらう必要があるからだ。

 

何回か尋ねたが留守だったのか、居留守を使っていたのか分からないが、とにかく会う事は出来なかった。

 

とにかく本当に時間が無かった僕は、貴重な時間を下らない事に使わせられて苛立ちが募った。

 

しかし4万円は大事だ。

4回目くらいに尋ねた時チャイムを押すと、出た。

 

 


 

「宅急便で一す。」

 

と言ってドアを開けさせて家に入った。

 

とにかくイライラが募っていたので、無理やりにでも金を回収しようと思ったが、その気も一気に冷めた。

 

「ごめんねごめんね!ちゃんと返すから!返す気持ちはあるから!」

 

開口一番謝ってきた。

 

「返す気持ちがあるならそれでいいよ」

 

仕事を始めて、今月の15日には返せると言ってきた。

 

信じられないから借用書を書かせた。

 

「じゃあ15日にお金だけ返しに来てね。」

 

そう言って、ラインのブロックを解除させ、ヤニ臭い団地を後にした。

 

流石に返してくれるよなと思ったけど、またすぐに連絡が取れなくなった。

 

借用書も書かせた訳だし僕に分がある。

しかし、心が貧しくなってる気がした。

 

こんな小さな事に固執してる自分が情けない。

忙しくて回収に行く時間も無かったし時間が空いた。

 

 


 

3ヶ月くらい経ってから、近くを通ったので覗いてみた。

ポストの受け口はガムテープでガナガチに閉ざされていて、表札も外されていた。

 

他にも色々な支払い明細や取り立てが来たのだろう。

 

夜逃げしたのかどうなのか知らないけど、もう面倒くさくなったし、4万円は諦めた。

 

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 ーーーエピソード5へ続くーーー

 

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いかにもホストっぽい先輩と。

自分の一般人感が際立つ。

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